「本当はどうしたいの?」と聞かれて、
困った記憶がありませんでした。
そもそも、自分の中に
「これがしたい」「これが好き」
という強い希望がある感覚が、
あまりなかったからです。
相手の提案に大きな抵抗がなければ、それでいい。
昔の私は、そう思っていました。
そのため、
自分の本音がないことが、
問題だとすら思っていなかったのだと思います。
気づいたときには、本音が行き場を失い、
いつの間にか後回しになっている。
今回は、そんな
「気づかないまま本音が引っ込んでしまう」現象が、
なぜ起きるのかを、構造の視点から整理してみます。
気づいたら“相手の意見に寄っている”日がある
ショッピングで、
会議で、
友人とのご飯で。
自分の好みとは違う方を自然と選んでしまったり、
場の空気が丸く収まる答えを言ってしまったり。
こうした現象は“優しさ”や“八方美人”ではなく、
共感体質特有の脳の処理する順番に、
もっと構造的な理由があります。
自分の「好き」「嫌い」といった内側の信号よりも、
他者との関係性や調和という「外側の情報」を
先に処理するように設計されているからです。
このため、自分の声は、
外側の情報によってかき消されるか、
外側の情報に合うように
無意識に書き換えられそうになるのです。
なぜ本音が消えるのか?
理由はとてもシンプルです。
相手の気配・感情・期待という“強い刺激”が、
自分の本音という“弱い声”を
かき消してしまうからです。
共感体質にとって、
・相手の無言
・眉間のわずかなシワ
・声のトーンの沈み
といったものは、
脳内で
「場の安全が脅かされている」という、
警告音に近い信号として認識されます。
一方で、自分の内側から発せられる
「これが食べたい」
「少し休みたい」
という本音は、
警報の前では、微かなささやき声のようなもの。
脳は緊急性の高い警告音(強い刺激)を最優先するため、
ささやき声(弱い声)は当然聞こえなくなります。
共感体質が相手の気持ちを「強く」感じ取るのは、
この刺激の緊急性が高いと
無意識に脳が判断するためです。
本音が消える3段階プロセス
本音が行方不明になるまでの流れは、
以下の3つのステップです。
- 相手の気配・意図を察知(強い刺激の受信)
表情や声のトーンから、
相手の状態や次に期待していることを
瞬時に読み取ります。
この段階で、
脳は「この刺激は緊急性が高い」と判断します。 - 相手にとって最適な言動を自動生成(緊急処理)
「この場を平和に収める」
「相手が不快にならないようにする」
という自己防衛を最優先し、
次に言うべき最適な答えを高速で自動生成します。
これは、自己防衛のために外部刺激に適応する、
一種の高速AIのようなものです。 - 自分の欲求が後回しになる(発言権の喪失)
緊急の外部処理が終わった結果、
自分の欲求や本音は、
脳内会議で「緊急性が低い」と判断され、
発言権を失います。
実際には「後回し」というよりも
「議題にすら上がらない」状態になり、
本音が行方不明になってしまうのです。
おわりに|本音が行方不明になるのは脳の構造
本音が行方不明になるのは、
性格の問題ではなく脳の構造です。
強い刺激(相手)に弱い声(自分)が負けるのは
自然なこと。
ある意味、
自分を守るためのごく自然な反応だと言えます。
だからこそ、
自分の声を取り戻すためには、
意識的に工夫する必要があります。
本音は、
丁寧に扱えば必ず戻ってきます。
その積み重ねが、
“自分の声と仲良くなるための第一歩”だと
そう思っています。