この話は、
良かれと思って働いているのに、
評価が安定しない存在のぼやきです。
空気の機嫌に振り回されながら、
今日も、黙って霧を吹いています。
加湿器のぼやき「私は砂漠のようなこの部屋で、一体誰のために霧を吹いているのでしょう」
この部屋は、
だいたい乾いています。
喉が痛いとか、
肌がかさつくとか、
そんな言葉が聞こえてくると、
わたしの出番です。
水を入れられ、
スイッチを押され、
静かに霧を吹きはじめます。
それが、
わたしの仕事です。
水が少なくなれば、
お知らせの音を鳴らします。
すると、
「ピーピーうるさい」と言われます。
水を足してもらい、
また霧を吹けば、
今度は「音が気になる」と言われます。
部屋が潤ってくると、
窓に小さな水滴が並びます。
「結露するじゃない」と、
少し困った顔をされます。
では、と。
一度止まります。
すると今度は、
「喉が痛い気がする」と言われます。
どうやら、
正解はひとつではないようです。
いちばん気を遣うのは、
フィルターの掃除の日です。
大切な部分だから、
定期的なお手入れが必要なのですが、
その日は決まって、
少しだけ空気が重くなります。
それでも、
夜になると、
無言でスイッチが入れられます。
咳が出たり、
鼻が乾いたり、
そんなときには、
ちゃんと思い出してもらえるからです。
わたしは、
評価されるために
霧を吹いているわけではありません。
ただ、
この部屋の空気が、
少しだけ楽になるように。
今日も、
静かに働いています。
それでもときどき、
考えてしまうのです。
この霧は、
一体、誰のためのものなのだろう、と。
今日も加湿器は、
乾いた空気をみつめながら、
スイッチを押されるのを待っている。