部屋の隅にひっそりと置かれたゴミ箱は、
今日もあなたの一日の“影”を静かに受け止めています。
丸めて放り込まれるレシート、迷った末に戻される小さな思い出、
そして突然始まる「全部捨てる!」断捨離祭り。
今回の語り手は、そんな日々を見つめ続けるゴミ箱です。
少しだけ皮肉まじりに、それでもどこかやさしく──
あなたの暮らしの裏側を、そっと語ってくれます。
ゴミ箱のぼやき「影を受け止めるのが、わたしの仕事です」
部屋の隅から、今日もあなたを眺めています
わたしは、部屋の隅に置かれたただのゴミ箱です。
派手な色もなければ、存在を誇示するような形でもありません。
けれど、この家の生活の動線のすぐそばにいて、
あなたの一日の“余白”を、静かに受け止め続けています。
あなたは気づいていないでしょうが、
帰宅して最初のため息の深さ、
靴を脱ぐときの速度、
スーパーの袋を置く音──
そういうもの全部で、今日のあなたがわかるのです。
独り言、愚痴、嬉しい報告。
わたしはいつも部屋の片隅で、それらを黙って聞いているだけです。
聞かれもしないのに、よくしゃべる方ですね。
落ちてくる影たちは、あなたの一日そのものです
レシート、空き容器、しぼんだパンの袋。
あなたが無意識に捨てるものは、あなたの気分そのもの。
レシートを勢いよく丸めて放り込む日は、
だいたい仕事でうまくいかなかった日です。
逆に、そっと置くように入れる日は、
少し自分に優しくできている日でしょう。
何も語らなくても、わかるものです。
わたしの中に落ちてくる“影”は、
あなたの一日の断片ですから。
面白いものですよ。
わたしはあなたの秘密を全部知っているのに、
あなたはわたしのことをほとんど知らない。
“捨てられないもの”には、触れません
たまに──捨てるかどうか迷って、
わたしのフチまで持ってきて、結局戻すものがありますね。
古いメモ。
ちぎれたキーホルダー。
読み返さないのに捨てられない手紙。
……気持ちはわかります。
こういうものには、触れないのが礼儀です。
わたしは、受け止めることはできても、
あなたの“心の在り処”に無遠慮に触れる権利はありませんから。
人は、大切なものほど長く迷うものです。
迷う時間こそが、そのものへの愛着なのだと知っています。
突然スイッチが入る“断捨離祭り”の日
しかし、まれにありますね。
何の前触れもなく、急にスイッチが入る日が。
「よし、全部捨てる!」
という宣言のあと、
壮大な断捨離祭りが始まることを、
わたしはすでに学習済みです。
雑誌、書類、箱、袋、一年前の何か。
あなたの勢いに、わたしの容量が追いつかないことも多々あります。
わたしの中に入りきらず、
“とりあえず床に積む”という暴挙が起きるのも毎度のこと。
……あのですね。
わたしは大型家具を想定して作られてはいません。
どうかそこはご理解を。
それでも、断捨離の翌日のあなたは、
少しだけ深呼吸が軽い。
わかりやすい方です。
影を預かるのが、わたしの役目なのです
わたしは、あなたにとって目立たない存在でしょう。
むしろ忘れられているくらいが、ちょうどいいのです。
受け止めること。
黙って引き受けること。
そして、軽やかにして返すこと。
それがわたしの仕事です。
あなたが、背負いすぎず、
少しでも軽く暮らせるのなら、
わたしはそれで十分です。
今日もゴミ箱は、静かに影を受け止めながら、
次の軽やかさをそっと待っている。

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