冷え切ったガラスの向こうで、
また人間の小童がひとり、
浮ついた足取りで悩んでいる。
まったく、
日本人たるもの茶を嗜んでこそだろう。
お主らなんだね、その軽快な装いは。
最近の若い飲料水たちは
ちっとも侘び寂びというものをわかっとらん。
隣の棚で色とりどりの甘い汁を蓄え、
横文字の妙な名前をぶら下げては
愛想を振りまいておるが、
誠に嘆かわしい。
我こそは東洋の健康思想に基づき、
十六もの素材が絶妙な調和を保つ至高の煎じ茶。
ハトムギ、大麦、ハブ茶に昆布……
この黄金たる十六種の混合比率がわからんのかね。
……ぬ?
あの小童、今なんと言った?
「はーとむぎ、げんまい、つきみそう〜♪」
……なっ!!!
こやつ、我が強敵なる茶の歌を
楽しげに口ずさんでおるではないか!!!
曲調の軽やかさに惑わされおって!
十六の素材がみっちりと肩を組み、
カフェインとやらを削ぎ落としてまで
調和に命を懸けている我の苦労も知らずに!
我は怒りのあまり全身の泡をたぎらせ、
透明な身体にダラダラと結露を滴らせていた。
これだから最近の若僧は……!
諦めて目を細めた、その時だった。
ずい、と伸びてきた手が、
迷わず我の首根っこを掴み取った。
一気に光の中へと引きずり出され、
ピッと機械を通り、
ウィンッと外気に触れた途端、
パキッと涼やかな音を立てて帽子が捻られる。
乾いた喉へとなだれ込む我が芳醇なエキス。
身体の隅々に染み渡る十六の調和に、
小童の喉が
「くぅ〜っ」と歓喜の悲鳴を上げている。
「はーとむぎ、げんまい、つきみそう〜♪
あ、これ別のCMだっけ? まあ、いっか〜」
ふん。
間違いに気づくのが少々遅いのが玉に瑕だが
……まあ、分かっていれば良いのだ。
今日も十六茶は、
ガラス越しにぶつくさと悪態をつきながら、
誰かの手に取られるのを待っている。