ほのぼの日誌

クリスマスケーキのぼやき日記|一夜の光のために、生まれてきました

クリスマスの食卓に並ぶ、小さくて甘い主役たち。
その胸の内には、人知れず抱えている“物語”があります。

今回の語り手は、静かに使命を待ち続けるクリスマスケーキ。
一夜の光の中で輝き、そして消えていく存在です。

第六話は、そんなケーキの“静かで凛とした”ぼやきです。


クリスマスケーキのぼやき「一夜の光のために、生まれてきました」

冷蔵庫の奥で、静かに出番を待っています

わたしがこの家にやってきたのは、冷たい風が少し強くなり始めた、冬の初めのことでした。
箱の中でそっと揺れながら、長い道のりを運ばれてきて、気がつけば冷蔵庫の奥に落ち着いていました。

そこは、外より少しだけ静かで、少しだけ暗い場所。
けれど、その静けさの中で、わたしの胸の奥には、確かな高鳴りが生まれていました。

わたしは知っています。
自分が“一年のうち、一夜のために生まれてきたケーキ”であることを。
ふわふわのクリームも、きらきら光る苺も、すべてはその一夜のための衣装なのだと。

出番はまだ先のようですが、心のどこかでそっと胸が温まるような予感を抱えながら、
わたしは静かに、冷蔵庫の奥でその時を待っていました。

扉が開いた瞬間、舞台袖から光の中へ

暗闇に一筋の光が差し込み、冷蔵庫の扉が開きました。
ひんやりした空気が揺れ、静かな世界がふっと明るくなります。

外からは、食器の触れ合う音や、誰かの弾んだ声が聞こえてきました。
どうやら、食卓の準備が整いつつあるようです。

箱ごとそっと持ち上げられたとき、胸の奥にかすかな震えが走りました。
いよいよ、わたしの出番が始まるのだと。

まだこれは舞台袖。
けれど、光の中へ運ばれていくその道のりは、
まるで幕がゆっくり上がる前の、美しい序章のように思えました。

家族の真ん中で、一夜の舞台が始まります

箱のフタが開けられ、そっとテーブルの真ん中に置かれた瞬間、
部屋の空気が少しだけ変わったのを感じました。

「わあ、ケーキだ!」
その言葉を合図に、歓声と笑顔がぱっと広がります。

子どもの瞳がきらきらと輝いて、まっすぐこちらを見つめていました。
その瞬間、胸の奥でそっと光が花開くように感じました。
今夜だけは、わたしがこの家族の真ん中に立つのだと思うと、
胸の奥で、静かな炎がそっと燃え上がるようでした。

派手に振る舞うつもりはありません。
けれど、この家族にとっての、かけがえのない舞台で、
できるかぎり美しくありたいと願ったのです。

「さあ、今夜の舞台が始まりますね」
心の中でそっとつぶやきながら、
わたしは一夜限りの主役として、その場に静かに腰を据えました。

フォークが沈むたび、わたしは役目を果たしていきます

やがてナイフがそっとわたしの上を滑り、
いくつかのかたちに分かれていきました。

それぞれのお皿に運ばれたわたしの一部は、
フォークが沈むたびに、少しずつ姿を変えていきます。

子どもの口のまわりには白いクリームがつき、
大人たちは「おいしいね」と笑い合っていました。

言葉はなくとも、この空気こそが、
わたしへの何よりのご褒美なのだと感じました。

ふわりと広がる甘さよりも、
この時間を囲む人たちの表情や、あたたかな会話のほうが、
ずっとまぶしくて、ずっと愛おしいのです。

フォークが沈むたび、わたしは少しずつ小さくなっていきます。
けれど、それは決して悲しい終わりではなく、
「役目を果たしていく」という静かな誇りの証でした。

どうか来年も、誰かの笑顔を照らせますように

気がつけば、お皿の上に残っているのは、
ほんの少しのクリームと苺のかけらだけになっていました。

テーブルの上には、飲みかけのグラスや、少し崩れた料理。
笑い声はゆるやかに落ち着き、
「おなかいっぱいだね」と、満足そうな吐息がこぼれます。

誰からもお礼を言われることはありません。
けれど、満たされた空気とゆるんだ表情のすべてが、
わたしにとっては「よくやったね」と背中をなでてくれるような、やさしい余韻でした。

一夜の役目を終えたケーキは、そっと目を閉じながら静かに祈ります。

どうか来年も、
わたしではないどこかのケーキが、
誰かの笑顔の真ん中で、同じように光を受け取れますように。

その願いだけを胸に残して、
わたしは静かに、この家のクリスマスから退場していきます。

今日もケーキは、静かな余韻を抱きながら、次の笑顔をそっと願っている。


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