クリスマスまでの毎日を、小さな扉で区切ってくれるアドベントカレンダー。
子どもの「今日のひとつ」を楽しみに待つ瞳の裏で、静かにすこしずつ“形”を失っていく存在がいます。
第五話は、余命25日を静かに受け入れるアドベントカレンダー紳士のぼやきです。
アドベントカレンダーのぼやき「私の体は、25日で役目を終えます」
この家で迎える初日
私がこの家に迎えられたのは、12月の始まりでした。
やわらかな紙を破る小さな手と、「今年も買ってきてくれたの？」と弾む声。
その瞳には、クリスマスまでの道のりを照らすような光が宿っていました。
棚の上にそっと立てかけられたその瞬間、
ああ、ここから私の物語が始まるのだと感じました。
同時に、25日で役目が終わることもわかっていました。
けれど、それは決して悲しいことではありません。
私の体が減るほど誰かが喜んでくれるのなら、
それは十分に価値のある生き方でしょう。
扉が開くたびに胸が満ちる
一つ、また一つと。
私の扉は、小さな指先によって開かれていきます。
今日の扉を開ける音とともに、
内側からチョコレートが顔をのぞかせると、
子どもの息がふっと弾みます。
その一瞬を見るのが、私はとても好きです。
自分の体がひとつ“欠ける”痛みよりも、
その歓声の温度のほうが、ずっと強く胸に響くのです。
小さな手のよろこびを見守りながら
子どもは毎朝、小さく背伸びをして“今日の扉”を探します。
指先が震えるほどの期待。
そっと触れた瞬間に漏れる、短い息。
扉が開くたびに、私の中には新しい“空洞”がひとつ生まれます。
しかしその穴は、愛された証。
減っていくことこそ、私の誇りでもあります。
私はただ黙ってそこに立ち、
小さな儀式を見守り続ける紳士でありたいのです。
すべての扉が空になった日
やがて12月25日。
最後の大きな扉が開かれる日がやってきました。
「わあ、今日のは大きい！」
その声を聞いて、私は最初で最後の役目を果たせたのだと感じました。
けれど、この日の主役はケーキやチキンやプレゼント。
テーブルの上は賑やかで、私のことを気に留める者はほとんどいません。
それでいいのです。
私は“静かに終わるもの”として生まれたのですから。
私の体はすべて空になり、
ただの薄い箱となって、壁の端に寄り添っています。
また誰かの朝を灯せますように
クリスマスの夜。
子どもが眠る前、そっと私に触れました。
「ありがとう。また来年も欲しいな」
そのひと言が胸に落ちると、
私は静かに目を閉じました。
もう、この家に戻ることはありません。
アドベントカレンダーとは、そういう生き物です。
それでも――。
この25日間が、誰かの心を灯す時間となったのなら、私は十分すぎるほど満ちていたのでしょう。
いつかどこかで、また誰かの朝を、そっと照らせますように。
そんなささやかな願いだけを胸に残して、私は静かに役目を終えます。
今日もアドベントカレンダーは、小さな扉の向こうで、次の“ときめき”を待っている。
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