相棒がいなくなった日、
僕は洗濯界のことを
少しだけ知りました。
この世界には、
長く語られている出来事があります。
それは
――靴下失踪事件。
相棒がいない。
何度見渡しても、どこにもいない。
僕が立ち尽くしていると、
後ろから声がした。
「慌てるな」
振り向くと、
老齢の靴下隊長が立っていた。
僕は、
相棒が見当たらないことを報告した。
隊長は少し黙ったあと、
ため息混じりに言った。
「……そうか」
そして、
静かにこう続けた。
「それは珍しいことではない」
僕は意味が分からなかった。
隊員が行方不明になっているのに、
珍しいことではない?
僕の疑問が伝わったのか、
隊長は厳かに宣言した。
「これは、靴下失踪事件だ」
隊長は、
少し遠くを見るように言った。
「私が配属された頃のことだ。
十足の部隊だった。
しかし出陣したあと、一足は戻らなかった」
僕は驚いた。
「いまだに、彼の行方は不明のままだ」
僕は、当時の隊長の部隊員が
相棒と重なってみえた。
「そ、そんな……」
隊長は静かに答えた。
「時折起こるが、理由は分からない。
だから未解決事件のままだ」
それでも僕は、諦めきれなかった。
戦場を知る者に、
話を聞こう。
そう思い立った。
最初に訪ねたのは、
洗濯ネット騎士団だった。
団員は言った。
「我々は守護騎士だ。
貴族衣類を守るのが役目だ」
そして、淡々と続けた。
「靴下部隊は守備対象ではない」
言外に知らないと突き放された。
それでも、
団員はこう言った。
「しかし戦場では、
誰がどこへ流されたか
分からなくなることがある」
そのときだった。
「証言が必要だ」
低いしわがれた声がした。
現れたのは、洗濯バサミだった。
洗濯界では、
尋問官と呼ばれている。
騎士団員は、静かに言った。
「正式な手続きだ」
次の瞬間、
団員は角ハンガーへ連れて行かれ、
そして固定された。
ぎゅっ。
布たちの視線が集まる中、
尋問官が言った。
「最後に、
その靴下の相棒を見たのはいつだ」
騎士団員は答えた。
「戦場の渦の中だ。
それ以降は分からない」
次に、洗濯カゴ司令官が呼ばれた。
ぎゅっ。
角ハンガーが大きく傾く中、
司令官は言った。
「出陣までは私の管轄だ。
しかし戦場のことは分からない」
その次は、タオル傭兵団だった。
ぎゅっ。
彼は気軽に言った。
「戦場ではよくあることさ。
布はお互いに巻き込み合う。
それが戦場だ」
尋問官は、すべての証言を聞いた。
しばらく沈黙が続いたあと、
尋問官が言った。
「証言に矛盾はない」
そして、こう続けた。
「しかし行方はいまだ不明」
それだけ言うと、
尋問官は去っていった。
それでも僕はまだ、諦めていない。
相棒は、
きっとどこかにいる。
僕はもう一度、
戦場を調べることにした。
靴下失踪事件の真相を、見つけるために。
今日も靴下は、
右往左往しながら、
消えた相棒の帰還を待っている。