人生の中で、
一度だけ起きた不思議な出来事があります。
怒りがピークまで達したはずなのに、
感情がすっと消えてしまったのです。
怒れなかったわけではありません。
むしろ、噴火直前まで煮えたぎっていました。
なのに、ピーッとやかんが鳴る前に、
お湯ごと一瞬で姿を消してしまったように、
怒りが“無”になってしまったのです。
あとから振り返ってみると、あの瞬間、私は
「エモーショナル・シャットダウン」
(感情が飽和したときに起きる、
感情回路の切断反応)を経験したのだと思います。
今回は、その“シャットダウン現象”を、
静かに記録しておきたいと思います。
怒りが噴火寸前だったのに——ふっと無音になったあの瞬間
あの日は、小さなイラッが連続で起きました。
ひとつなら流せます。
ふたつなら深呼吸すれば済みます。
でもその日は、熱が冷める前に
次のプチイラが襲ってくるという悪循環でした。
気づいたときには、怒りの温度がどんどん上昇し、
沸騰寸前のやかんのように、
心の中で果てしない怒りが渦を巻いていました。
ところが、その直後でした。
怒りがスンッと姿を消したのです。
やかんがピーッと鳴る直前で、
お湯そのものが消失してしまったように、
胸の温度が一気に“ゼロ”になりました。
その場で「これはシャットダウンだ」と
冷静に分析していたわけではありません。
ただ、感情がすっと途切れて、
目の前の業務だけを淡々とこなす
タスク処理ロボットに切り替わっていました。
怒りを我慢したのではなく、“飽和して落ちた”だけ
あとから振り返って気づいたのは、
私は怒りを逸らしたわけでも、
冷静に抑え込んだわけでもなかった、
ということでした。
あの瞬間に起きていたのは、
受け止めきれない刺激が一気に飽和し、
心が感情回路を強制的に切断した
という反応に近いのだと思います。
言い換えると、
「怒りの容量がいっぱいになって、
感情OSだけ先に落ちた」ような状態です。
怒る体力も、
怒り続ける余熱を抱える余裕も、
あのときの私には残っていなかったのだと思います。
これは“弱さ”ではなく、身体や心が
これ以上の過負荷から守るために作動させた、
ひとつの自動的な安全装置に近いのだと、
今は感じています。
感情が落ちたあとの私は、完全に「タスク処理ロボット」
感情が切断されたあとの私は、
自分でも驚くほど淡々としていました。
・ 感情ボリュームはゼロ
・ 表情はいつも通り
・ 会話は必要最低限
・ 心の中は完全に無音
・ 「仕事を終わらせる」ことだけに集中
怒りを抑え込んでいたというより、
怒りそのものが“消えた”
という感覚に近かったです。
まるで、感情を扱う装置だけが一時的に停止して、
タスク処理だけが残った別人格になったような、
不思議な時間でした。
怒りはその場で終わりではなく、あとから再起動
おもしろいことに、
怒りは消えて終わりではありませんでした。
仕事中には完全に無音だった感情が、
数時間後、ひょっこり戻ってきたのです。
「いや、あれ普通にムカつくよね?」
そこから、私の脳内会議が始まりました。
・ 事実を並べて整理する
・ 相手の意図を推測してみる
・ 自分の反応や前提を振り返る
・ どこが嫌だったのかを確かめる
・ どのラインが越えられたのかを言語化する
この一連の脳内会議が終わって、
ようやく怒りの温度が落ち着いていきました。
それは“自然鎮火”というよりも、
思考のプロセスによって少しずつ温度を下げた、
という表現のほうがしっくりきます。
リアルタイムでは
シャットダウンして何も感じなくなり、
あとから再起動して、
会議を重ねてようやく落ち着く。
これも私なりの反応のクセなのだと思います。
私は“怒れない人”ではない
以前の私はずっと、
「瞬時に怒れない私は反射が遅いのかもしれない」
「言い返せない私は弱いのかもしれない」
と感じていました。
でも今は、少し違う見え方をしています。
怒ったあとの私が受けるであろう
・ 人間関係の気まずさ
・ 衝突後の空気の悪さ
・ 余熱を抱え続ける疲労
・ 感情的になったことへの自己嫌悪
・ 言い返したことへの後悔
こうした負荷を、心が先に察知して、
「これ以上はしんどいよ」と、
感情の回路を切断していたのかもしれません。
私は怒れなかったのではなく、
怒りによって傷つく未来の自分を、
心がそっと守っていた
——今はそんなふうに思っています。
おまけのミニ図解|怒りが消える反応は3タイプ
「怒りが出ない」「怒りが消える」
とひとことで言っても、
その仕組みは人によってまったく違います。
ここでは、あくまで私なりの理解として、
怒りが消える反応をざっくり3つに分けてみます。
① 身体が先に落ちるタイプ
固まる・震える・息が浅くなるなど、
生理的な反応でブレーキがかかるタイプです。
「怖くて体が動かない」
「その場で固まってしまう」
といった形で現れます。
② 感情が先に爆発するタイプ
怒る・泣く・言い返すなど、
外側に出すことで処理をするタイプです。
周りからは「感情表現が豊か」
と見えることもあります。
③ 感情OSだけ落ちてタスクモードになるタイプ
怒りが蒸発して無音になり、
感情だけが静かに“オフ”になるタイプです。
これはエモーショナルシャットダウン
(情動のシャットダウン)に近い反応で、
その場では淡々とタスクをこなしてしまいます。
私はこのタイプです。
どのタイプも、ただの防御反応のひとつです。
「これが正解」「これはダメ」
という優劣はありません。
自分がどの反応をしやすいのかを知っておくと、
「あ、このパターンが出てきたな」
と気づけるようになり、
少しだけ自分にやさしくなれる気がします。
おわりに
怒りがスンッと落ちる現象は、
欠陥でも、冷たさでも、弱さでもありません。
心が「これ以上はオーバーだよ」と判断して、
静かに感情システムを休ませてくれていたと
そう思います。
自分の反応を責めずに、
ひとつの“特性”として受け取ってみるだけで、
少しだけ、生きやすくなるのかもしれません。